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民家移築事例・鈴の宮の家

民家移築:「最高の大人の遊びを手に入れる」


民家を全解体し、新たな敷地に再建築することを「民家移築」と呼んでいます。完成後の姿は移築しない「現地再生」と同じように見えますが、実は、移築は「民家を使った新築」。
そこには通常の「家を持つこと」を超えた、趣味の楽しみが待っています。
ここでは民家移築という「最高の大人の遊び」の世界を、私達の手掛けた移築設計を実例に挙げながらご案内しています。




♦目次♦
  1. 民家移築は「最高の大人の遊び」

  2. 真剣に全体計画を立てる楽しみ

  3. 経験ある専門家(設計事務所)に相談しよう

  4. 移築、ということ

  5. 民家の選び方

  6. 民家の魅力を見つけるポイント

《1.民家移築は「最高の大人の遊び」》

数ある「手に入れる喜び」の中で、「家」は個人にとって最もボリュームあるものと言えます。
物理的な大きさも、手に入れるための資金もBigです。
一般的には、物理的な大きさと建物の仕様(仕上げや部材の種類)や居住性能(断熱性能や耐震性能)などに比例して、より多くの資金が必要になります。「ある程度の広さは欲しいけど、建設費は押さえたい、けれど居住性能は譲れない」と誰もが頭を悩ますところです。

 民家移築の場合も例外ではありません。ただ、少し様子が違います。

例えば物理的な大きさを半分にしても、建設費は半分にはなりません。
既にある古い材料(古材)を再使用するのに新しい綺麗な材料よりも費用が掛かり、しかも傷があってツギハギだったりします。
移設するので建築法規上は「新築」扱いになりますが、見た目はちっとも新品にならずに古いまま。
その上、一般住宅の倍以上の建設資金が必要な場合もある、となれば民家好きでない方にとっては全く理解に苦しむ世界かもしれません。

民家移築の費用がかさむのは、一つには「解体費」が必要になるということと、現地再生のように工事範囲を限ることが出来ないということがあります。
欲しい部分が元の建物の半分だったとしても、全体を「織物を解くように」ていねいに解体しなければなりません。
どの部材がどこを構成していたかを全て記録(番付)して再び組めるようにし、建物を構成していた素材は板1枚から壁土に至るまで出来るだけ保管して建設時に再使用します。
又、古材は汚れを落として磨き、再使用する際は欠損部分の補修も施します。
 いずれも新材使用には無い「手間」であり、人の手でしか成し得ない技術です。

民家移築の費用についてのもう一つの要因は、建築主の「民家らしさへの思い入れ」です。
 が、民家に魅了されたからこそ移築を選んだのですから、ここを外しては元も子もありません。
現地再生の場合は民家としての魅力を損なうような新設部分を取り除くことで「民家らしさを掘り起こし」ますが、一端全てを解体して再構築する移築の場合は「民家らしさを創る」ことになります。

この「民家らしさ」は、古材を使って古い建具や古い家具を並べれば自ずと出来上がる、という単純なものではなく、「民家の言葉遣い」に則り、柔軟さと閃きによって建物を再構築した時にようやく現前するものです。古い建具や家具が活きるためには、それにふさわしい空間が必要ということです。

民家に魅了された人は、この「民家の言葉遣い」に魅了されているとも言えます。したがって一般住宅では最優先の「広さ」や「居住性能」よりも、この「民家の言葉遣い(民家らしさ)」が重視される場合もあります。これら全てに於いてハイ・グレードを求めれば、建設費は相応にUPします。

そして最後に、忘れてはならないのが「希少性」です。
「民家」の定義には諸説あるとしても、民家移築にふさわしい建物の数は限られています。
後継者も無く放置されれば自然に朽ちて行き、後継者が民家好きでなければ呆気なく取り壊されてしまうのです。近年は「民家バンク」に登録して引き取り手が現れるのを待つケースも増えて来ましたが、タイムリミット(後継者側の事情)があるのは同様です。
 民家は減る一方、しかも自分のイメージに合う建物となれば更に数は限られます。
「新規に」古い民家を増やすということはあり得ないので、この「希少性」は正真正銘の「希少価値」ということです。消えてしまったら、もう二度と手に入れることは出来ないのです。

   「いつまでも 在ると思うな その民家」

  そう、民家移築は「最高の大人の遊び」なのです。

民家移築事例・紅石荘小屋組み
上:【民家移築事例・紅石荘小屋組み】
民家の魅力の1つに曲がりくねった梁があります。人力に依るしかない時代は真っ直ぐに製材するのが困難でした。が、貴重な材料を大切にしたいという思いもあったに違いありません。

民家移築事例・紅石荘外観
上:【民家移築事例・紅石荘外観】
移築した建物には元の民家の骨格が継承されます。そこに新たな建築主のイメージと人となり、設計者のインスピレーションが加わり、それぞれ個性ある佇まいの建物となって行きます。


《2.真剣に全体計画を立てる楽しみ》

民家移築は「最高の大人の遊び」です。
単に「半端でない価格のもの」なら対重量比で宝石や貴金属にはとても敵いません。
が、ショーケースに並んでいる宝石や貴金属との決定的な違いは(民家がショーケースに入らないのは別の話として)、商品として「既に出来上がっている物」ではないということです。

「あれ?どこかで売っているのを見た気もするけど?」と思いましたか?
民家が現地再生や移築によって建売物件になっている例は確かにあります。建売、つまり「既に出来上がっている物」です。それで良ければ手っ取り早く建売を買うのも一つの選択でしょう。
買ってから、自分の好きなようにカスタマイズするという手もあります。
  (住宅のカスタマイズについては「住宅新築・リフォーム」をご覧ください)

しかし「最高の大人の遊び」を楽しみたいなら、建売物件のことはこの際スパッと忘れましょう。
民家移築は「既に出来上がっている物」ではないからこそ、「最高の遊び」として楽しめるのです。
計画から完成までの興奮とスリル(?)に満ちた「創る楽しみ」こそ、民家移築の醍醐味です。
  (この場合「造る」ではなくて「創る」です。D.I.Y.のことも、ここでは忘れてください)

さて、民家移築を実現するには、何よりもまず最初に「全体計画」を立てることが重要です。
 全体計画では次のことを決めます。

  1. 総工事費

  2. タイムスケジュール

  3. 建物の規模・目的・イメージ

  4. こだわり

  5. 建設地

1)総工事費:民家移築を完遂するための全ての費用のことです。建物の移築工事費だけでなく、土地の購入費や造成費・諸手続きの費用・設計監理料・消費税などを全て含んだ費用ですが、各費用の配分を考えるのはこの時点では無理なので、総額としての限度額を決めておきます。
例えば「5千万円まで」とか「100億円以内」といったように決めます。
 「総工事費」がこの「遊び」を楽しむために費やせる総資金ということになります。

2)タイムスケジュール:完成までの日程です。「遊びなんだから、ゆっくりじっくり楽しみたい」という場合でも、とりあえず月単位・年単位の日程は考えてください。
民家移築の場合、一番の関門は民家を見つけることですが、丁度良い構成(骨組)や規模の民家が見つからなければ、計画は否応なく足踏み状態となります。しかも《1》で述べたように民家は数に限りがあるので、あまりのんびり構えていると「すぐに欲しい」という声が優先されてしまいます。
急かすわけではありませんが、「思い立ったら吉日」ぐらいのノリで日程を考えてみましょう。
 尚、タイムスケジュールは「スタート」ではなく、「ゴール」を決めて逆算することが肝心です。

3)建物の規模・目的・イメージ:「規模」は移築する前の民家の大きさのことではなく、手に入れたい「規模」のことです。必要な広さはどのぐらいなのかを良く考えて目安を決めます。
「目的」は建物の用途のことで、住宅・別荘・仕事場・趣味の場・隠れ家などと決めておきます。
「イメージ」とは手に入れたい「空間」のことです。まだ漠然としている場合は実際に在る民家や再生事例などを参考にしましょう。他の民家を参考にする際は、建物の全体感ではなく「気に入った部屋の一角」など、部分に照準を絞ると自分の求める「空間」が見えて来ます。
 ここで決めた「規模」「目的」「イメージ」は、移築する民家を選ぶ際の判断材料になります。

4)こだわり:「特に重視したい箇所」や「テーマ」について考えます。例えば「ダイナミックな架構」「屋根の形」「建具」「壁の仕上げ」、あるいは「庭」や「導入部(門)」など、幾つか候補を上げて最終的に1つに絞ります。どうしても1つに絞れない場合は順位を付けておきます。

5)建設地:民家を建てる場所を決めます。

「全体計画」は探検隊の地図に相当するものです。途中で迷ったりせず、目的地に無事到着するために真剣に立てましょう。
例えばノートを1冊用意して、この計画を書いてみます。1〜5の項目ごとに数ページを割き、広めの余白を残しておきます。1〜5を頭から決めてしまうのではなく、3で考えたことを2や4にフィードバックしてから1を見直すなど、何度も前後して考えてみます。
新しい考えは、前に書いたことを消さずにその次の行に(日付と共に)書き加えて行きます。そうすることで思考が堂々巡りに陥るのを防ぐことが出来ます。思いついたことは文字だけでなく図に描いてみたり、写真などを「イメージ」の参考に貼り付けても良いでしょう。
パソコンやスマフォを利用しても良いのですが、1冊のノートにこの計画をまとめ、民家移築を完遂するまでのさまざまなことを記録して行くのも楽しいものです。

民家移築事例・鈴ノ宮の家(玄関ホール)
上:【民家移築事例・鈴ノ宮の家(玄関ホールから居室を見る)】
手前は玄関ホール兼土間。但し土間は三和土ではなく大谷石です。玄関左手には土間として使えるサンルームがあります。その手前の壁はこの家が土壁であることの記録のため、敢えて塗り残しました。

民家移築事例・鈴ノ宮の家(居間)
上:【民家移築事例・鈴ノ宮の家(居間)】
建具は既存の物をそのまま再使用しているため、長身の建築主は鴨居をくぐらなければなりません。が、「民家はそういうもの」とのご返答。床は杉板を朝鮮張りにしました(外観はページTOP)。


《3.経験ある専門家(設計事務所)に相談しよう》

「最高の大人の遊び・民家移築」の全体計画を立てたら、さっそく民家探しに出掛けましょう。
民家には地域によって異なる独特の形があります。同じ県内でも建てられた場所(山間・平野部・街道筋など)や用途(かつてそこで営まれていた生業の種類)によって屋根の形や構成が異なるなど、そのヴァリエーションを訪ね歩くだけでもたいへん興味深いものです。さまざまな民家を観て、自分の好みを知り、移築民家を選ぶ判断材料として「全体計画」の3に書き加えて行きます。(民家の選び方と魅力を見つけるポイントについては《5》に別記しました)

さて、民家を訪ねる旅と前後して、民家の専門家を訪ねて相談します。
「民家の専門家」と言えば民俗学などの研究者を思い浮かべますが、これは移築の話なので「民家移築の経験ある設計事務所」を訪ねてください。
 その際は作成した「全体計画」を持参します(ノートを丸ごとではなく結論だけでもOKです)。

相談を受けた「民家移築の経験ある設計事務所」は、「全体計画」の総工事費建物の規模・目的・イメージこだわり建設地を確認し、タイムスケジュールに現実的なアドバイスをします。
現実的なアドバイスとは、竣工希望月日からおよその移築工事期間・解体期間・設計期間を順に逆算し、移築民家を選定する期限を示すということです。
その後の流れは設計事務所によって異なるかもしれません。
  以下に紹介するのは私達の事務所で行なっている民家移築の設計監理業務手順です。

  1. 建築主の希望を踏まえて移築可能な民家の情報を集める

  2. 移築候補民家を建築主と共に見に行き、大まかな規模・構成の把握を行う

  3. 調査・企画業務を行う

  4. 実測調査・基本設計〜竣工

1.建築主の希望を踏まえて移築可能な民家の情報を集める

移築候補民家の情報は、建築主自身が見つけた候補を提示することも出来ます。
特に目星が付いていない場合は「民家バンク」などから探します。「民家バンク」は民家を譲りたい後継者が自ら申し込んで登録し、その地域を担当する設計事務所などが簡単な調査情報にまとめて提示しているため、民家探しにとても役立ちます。

2.移築候補民家を建築主と共に見に行き、大まかな規模・構成の把握を行う

初めて移築候補民家を見る瞬間は重要です。これは「お見合い」のようなもので、第一印象が決め手になることが多いからです。又、建築主と共にその民家を見ることにより、コミュニケーションを通して建物の第一印象を共有し、選定の判断材料にしたり、建築主が求める「イメージ(空間)」への理解を深めることが可能になります。候補の民家が建築主の「全体計画」にふさわしいと判断したら、調査・企画業務に入ります。

3.調査・企画業務を行う

移築候補の民家を用いて、建築主の希望を実現するための提案をする業務です。
建物全体の状態を調査し、規模・構成を把握して魅力を探るのは「現地再生」と同様ですが、移築の場合は全解体し再建設する点が異なります。つまり建築主の求める「イメージ(空間)」を実現するために、建物の構成を読み替えて再構築することが可能ということです。

《1》で述べたように移築候補民家には「タイムリミット(後継者側の事情)」があり、「民家は減る一方、しかも自分のイメージに合う建物となれば更に数は限られ」ているので、タイミング良くふさわしい規模・構成の民家に出逢えるとは限りません。又、使用目的に合わせた改造が必要な場合もあるでしょう。そこで、元の民家の再構築が必要になるのです。

例えば部屋の配置を変えたり、階段の位置や向きを変えたり、2階部分を省いて1階に小屋裏を乗せたり、梁を入れ替えたりといったことです。
再構築を考える時は、たとえ形は変わっても元の民家の持ち味を最大限活かすようにします。
もちろん《1》で述べた「民家の言葉遣いに則り、民家らしさを創る」ことも忘れてはなりません。

これは設計者が建築に対する自分の理想を無理強いするのではなく、あくまで民家の成り立ち(素朴・生のまま・見立てではなくそれそのものであること)に従うということでもあります。
とはいえ、既存民家という限られた素材を元に魅力的な再構築を考えるのは設計者の職能力の見せ場であり、建築主にとっては「最高の遊び」が次第に姿を現す、知的興奮に包まれる一時となります。

又、ここでの提案は、建築主が「全体計画」で示した総工事費(建物の移築工事費・土地の購入費・造成費・諸手続きの費用・設計監理料・消費税などを全て含んだ費用)を念頭に入れて考えます。
私達の事務所では自社データを元に建築工事の概算を算出しているので、総工事費の中の建築工事費の目安を付けることが出来ます。これを「全体計画」に沿う企画書としてまとめ、基本設計に入ります。

4.実測調査と基本設計〜竣工

実測調査では建物の更に詳細な調査を行います。その名の通り、建物の寸法を柱の1本1本から建具・手摺に至るまでを実際に測り、素材の状態も含めて「野帳」という図に記録するのです。
移築の場合は、再使用予定ではない部材が転用(場所や用途を変えて再使用すること)が不可能なほど傷んでいる際は記載を省略する場合もありますが、基本的には全てを記録しておきます。

この「野帳」を元に基本設計に入ります。基本設計では、「全体計画」に沿った建物の仕上げや素材などの仕様・電気や水廻りなどの設備・断熱性能・耐震性能などを検討し、建築主と共に具体的に詰めて行きます。こうした内容がほぼ固まった時点で2度目の(自社データによる)概算を出し、建築主の了承を得て基本設計は完了します。

基本設計終了後は、施工業者が見積りと工事をするための契約図である実施設計図の作成に入ります。その後、施工業者による工事請負見積りの内容を精査したり、契約通りの工事が行われているかをチェックしたり、工事中の課題を解決したり、というのが設計事務所の主な業務になります。
その他、民家移築は法規上は新築扱いになるため、建築確認申請が必要であり(建設地によってはその他の法規上の申請が必要になる場合もあります)、設計事務所がこれを代行します。
移築候補民家を譲受けることが確定した時点で、建築主は元の所有者と譲渡契約覚書を交わします。

実施設計から竣工までの流れは一般建築の場合とほぼ同様です。

  実施設計完了 → 施工業者による見積 → 工事契約・着工・工事監理開始 → 竣工です。

(設計監理業務の流れについて引き続き詳細をご覧になりたい方は【業務概要】を参照してください)

さて、3行前にほぼ同様と書きました。わざわざ太字で留保が付いたのは、一般建築とは異なる点があるということです(続きは次項《4》をご覧ください)。

民家移築事例・山北の家(小屋裏)
上:【民家移築事例・山北の家(小屋裏)】
富山県の大規模な民家にある「枠の内」と呼ばれる部分を組み込んだ例。3段に重ねた太い丸太梁が居間の頭上をうねる様は迫力があります。「これが欲しい」という建築主の情熱が実現を可能にします。

民家移築事例・楽庵
上:【民家移築事例・楽庵】
米蔵を住居として移築した例です。木材を豊富に用いたシンプルな構成、且つ重厚な蔵特有の構造を最大限活用して独特な雰囲気を創っています。


《4.移築、ということ》

そうです。一般建築と異なる点は建物を全解体して建設地へ運び、再建設するという点です。
移築候補の民家の所在地と新たな建設地が比較的近い場合はあまり問題ではありません。
 が、遠隔地へ移築する場合、解体する業者が建設地での工事も引き受けてくれるとは限りません。

ではどうしたら良いのか?
 この場合は、建設地での工事を引き受けてくれる施工業者を見つけ、別途に工事契約します。

《1》で述べたように、民家は「織物を解くようにていねいに解体」して「どの部材がどこを構成していたかを全て記録(番付)して再び組めるように」します。
又、再構築の仕方にもよりますが「建物を構成していた素材は板1枚から壁土に至るまで出来るだけ保管して建設時に再使用」するのが理想なので、施工業者はこうした民家移築の特殊事情について理解のある業者を選びます。

異なる施工業者が工事の途中でバトンタッチすることになるので、そのタイミングも考慮に入れなければなりません。理想的には、解体を担当した業者が建設地での「建て方(構造を組み上げること・棟上げ)」までを行い、その後を建設地近郊の施工業者が引き継いで仕上げます(建設地近郊の施工業者に依頼することは竣工後のメンテナンスなどの対応時のメリットともなります)。

又、忘れてはならないのが、「建築主の希望するイメージ(空間)の実現」という目標です。
そのために設計者は設計図や3Dを描くわけですが、幾らあの手この手で表現しても意図が上手く伝わらなければ「似て非なるもの」が出来上がってしまいます(逆に熟練の職人ワザで意図した以上の仕上がりになることも多々あります)。

ここで、1つ強調しておきたいことがあります。
民家移築という「最高の大人の遊び」を成功させる鍵は、結局のところ「人と人のコミュニケーション」なのだということです。
それは建築主と設計者との間、設計者と施工業者との間、異なる施工業者の間、そして施工業者と建築主の間、あるいは民家の元の所有者と建築主や設計者との間でのコミュニケーションです。

多くの人が関わる民家移築では、相互のコミュニケーションの持たれ方が、建築主の達成感(満足度)を左右すると言っても過言ではありません。

解体中の民家の小屋組
上:【解体中の民家の小屋組】
この民家では細くて不揃いながらも小屋束・小屋梁・小屋貫などの部材がほぼ完全な形で残されていたため、補強して再使用し、魅力的な意匠として表現することを建物のテーマとしました。

民家移築・工事中
上:【民家移築・工事中】
煤竹を選ぶ。木造建築の工事は、人の手が動くことの地道な積み重ねによって造られます。

民家移築・工事中
上:【民家移築・工事中】
建て方の様子。曲がり梁を手順良く組み上げて行くダイナミックな作業は見ているだけで興奮します。


《5.民家の選び方》

さて《1》で述べたように、民家移築という「最高の大人の遊び」には一種独特な世界があります。「独特な価値観の世界」と言っても良いかもしれません。

例えばここに一軒の民家があるとします。
それが現役の民家、つまり住人の暮しが現在進行形で営まれ、手入れされた庭や畑が在るというような民家であれば、「いいな、住んでみたいな」と思うことに、とりわけ独特な価値観は要りません。

もしそれが現役では無い民家、つまり現在は使われていない民家となるとどうでしょうか?
後継者が移住したなどさまざまな事情で住む人の居なくなった民家は、使われなくなってからの年月に応じて傷みが進み、荒れて行きます。
「住人不在後20年経過」ともなれば、かなり立派な「廃屋」の仲間入りです。
そんな民家を前にして、「これ、欲しいな」と呟いたら、隣の人(独特な価値観の世界を共有していない人)は目を丸くして驚くかもしれません。

しかし、驚かれたぐらいでひるんでいては「最高の大人の遊び」は楽しめません。
いえ、話はむしろ逆さまです。「こんな廃屋を手に入れて一体どうするんだ!?」と驚き呆れた友人・知人は、完成した移築民家を観てもっと驚くことになります。元の民家の「廃屋度」が高いほど、この「変身の衝撃」は大きなものとなります。
友人・知人を驚かせる楽しみは一時のものですが、建築主自身の「あの廃屋をこんな素晴らしいものにしたぞ!」という何とも言えない達成感は、完成後の暮らしの中で熟成しながら続いて行きます。

もちろん、敢えて「廃屋」を選ぶ必要はありません(友人を驚かせるのが目的の場合は別として)。
「住人不在後20年経過」の民家を選んだ場合、状態によってはかなりの部材を捨てることになってしまうからです。
古材は腐食箇所や欠損箇所に接木や埋め木を施し補修して再使用しますが、補修にも限度があります。補修部分が多すぎると「味わい」を超えて見苦しくなるだけでなく、部材としての強度も怪しくなって来ます。補修箇所が増える分、手間が掛かるので費用も増えます。
 何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」なのです。

では「廃屋」ではない移築民家候補の中から、一軒を選ぶケースについて考えてみましょう。
《3》で述べたように、「民家には地域によって異なる独特の形があり」「同じ県内でも建てられた場所(山間・平野部・街道筋など)や用途(かつてそこで営まれていた生業の種類)によって屋根の形や構成が異なり」ます。
実際に地方を巡ってみたり、民家に関する資料を集めて自分好みの形を探してみるのが第1段階です。もっとも、「こんな民家がいいな」と思っても、「廃屋」でない限りは簡単に譲り受けることは出来ません。
第2段階としては、民家移築の経験ある設計事務所などを通して、譲り受け可能な民家の候補を幾つか挙げます。相談を受けた設計者は建築主と共に候補の民家を見てまわり、建築主の希望を実現するにはどの民家が適切かをアドバイスします。

しかし、最終的に民家を選ぶのは建築主自身なのです。
 それは、民家選びは「結婚のようなもの」だからです。
つまり、「出逢い」があり、「初対面の気合い」のようなものがあります。その時の、建築主の個人的な心理状態や身辺状況、あるいは世界情勢やその日の天気などが作用したりもします。
端的に言えば「運命+人それぞれの好み」ということです。
 尚、現実的には、傷みの程度がひどくなく、希望する規模に近いものを選ぶのがベストです。

移築前の民家
上:【移築前の民家】
移築候補に挙げた民家も、調査すると使えない箇所があることも。この民家は玄関の右側の厩(馬を飼っていた場所)の部材が傷んでいたので、撤去し桁行方向を詰めました。下は移築完成後。

民家移築事例・杣口の家
上:【民家移築事例・杣口の家】
元の民家の入母屋を通風採光のため切妻屋根に再構築。杉皮葺きの突き上げ屋根は移築先の地域の伝統的な建築言語で、屋根の頂部の千木は元の民家があった地域の伝統的な形です。(上写真:斎部功)


《6.民家の魅力を見つけるポイント》

前項で「民家選びは結婚のようなもの」と述べました。結局は人それぞれの好み、ということです。
移築経験の豊富な設計者が幾ら「この場合はAよりBがお薦めです」とアドバイスしても、建築主がAを気に入ってしまえば、そこはもうAで行くのが正解ということになります。設計者の「Bがお薦め」が論理的に正しく且つお財布に優しくても、建築主のAへの愛は論理と財布を超えるのです。

では、「あまり明快な好き嫌いが無い」「直感とは別の決め手が欲しい」あるいは「AもBも好き」という場合はどうしたら良いでしょう?
全体的な印象で選ぶことが難しい時は、幾つかの部分に分けて見てみましょう。
  以下に民家の魅力を見つけるポイントを挙げます。

  • 抜け感:玄関から奥へ、又は部屋から部屋へ見通せること。風通しの良さや明るい印象がある。

  • プロポーション:階高と屋根の大きさなどのバランス。

  • フォルム:建物の形。再構築する場合でも、特徴ある屋根などは魅力として活かしたい。

  • 素材:古材の樹種など。クリやケヤキなどは独特な木目の美しさがある。

  • :四判石や沓脱石など。現在は貴重な国産の石には独特の趣がある。

  • 建具:趣ある古い建具は修理して再使用したい。

  • 造作:床の間・欄間などの装飾的な彫刻などの意匠。

  • コーナー:小さな溜まりのような場所。ニッチ。

民家移築事例・むくり屋根の家に再使用した襖 民家移築事例・むくり屋根の家
上:【民家移築事例・むくり屋根の家】
移築前の民家にあった花鳥風月が描かれた襖は、補修して再使用しました。右は和室に用いた様子。

移築前の民家
上:【移築前の民家・むくり屋根の家】
下の移築後と比べると、プロポーションに大きな変化は無いことがわかります。
民家移築事例・むくり屋根の家
上:【民家移築事例・むくり屋根の家】
内部は建築主の希望を盛り込んだ空間ですが、元の民家のほっこりした印象を、屋根にむくりを付けることで受け継いでいます。

民家移築事例・小荒間の家
上:【民家移築事例・小荒間の家】
元の民家の欄間をロフトの手摺に組み込みました。味わい深い曲がりくねった部材もそのまま活かします。

民家移築事例・小荒間の家(外観)
上:【民家移築事例・小荒間の家(外観)】
民家であっても、構成の再構築次第で、モダンでお洒落な佇まいにすることも出来ます。




最新事例ご紹介:我が家流の住まい、出来ました】←民家再生最新事例ページもご参照ください。



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